収納グッズをいきなり買ってうまくいった試しがありません。
石橋を叩いて渡るように、ゆっくりと冷蔵庫収納研究をしています。今日のテーマは【庫内に入れるものの、グループごとの最大値を測る】です。
先日のとっておき家事で、冷蔵庫に入れるもののゾーニングやなかまわけをしました。まだ確定ではありませんが、それに沿って、グループごとの「一番大きなもの(と推測されるもの)」を予測しています。
この作業は、きのうのとっておき家事の続き。
あとは良さそうな収納ケースを探してみます。
この週末はいくつか下見に行ってみたけれど、今のところ気になるものは見つかりません。気長に探していきます。
365日のとっておき家事 Story 『ヒロインの親友』
9月12日 クイーン
▼0話目を読む/基本1話完結/1日1話目安で更新しています
http://blog.livedoor.jp/rincaji/archives/20162017.html
「今日もクイーンはお美しいですね」
思わず顔を上げそうになった。続いて嘲笑が湧き起こる。
私はぐっと身を固くした。動悸が速くなり、鉛筆を持つ指が震えるのを感じた。
「今日は髪型が特にすてきね」
笑い声が続く。目頭が熱くなった。ノートに書きつけた文字がにじむ。でも、決してこぼしてはいけない。まぶたにぐっと力を込める。
気づいていないと思わせなければいけない。どんなに悔しくても、心が引き裂かれそうでも。
確信している、でも証拠がないのだ。
中学1年の秋ほど授業が終わるのが嫌だった時期はない。
チャイムは地獄への入り口だった。
エリカ、エリザベス、女王、クイーン。かんたんな連想ゲームで答えが出る。
「美しい」はその対義語だ。誰に聞かれても困らない、責められない。彼女たちの傲慢で鉄壁の守りに、私はどうすることもできずにいた。
嫌な夢を見た。
まだ弱かったころの私に取り憑いたような感覚だった。あの時の悪感情だけではなく、長雨でどこか湿った教室の空気や、誰かが少し開けたまどから染み込んでくる土のにおいまで、今しがたまで目の前にあったように思える。
ベッドから抜け出して、そのまま洗面所へ向かう。
カーテンを開けると、まだ少し薄暗さが残っていた。嫌な時間に目覚めたものだ。寝直すには遅いし、起き出すには少し早い。
身じたくを整えて、エプロンをきゅっと結ぶ。お腹が大きくなってきたので、そろそろ使えなくなるかもしれない私の今の「戦闘服」。
胸の下あたりまで伸びた髪の毛は後ろでひとつに束ねて、ゴムをゆるめ、ふたつに割った髪の毛の間に毛先をすべりこませる。毛先を左右に引っ張って整える。
お湯が沸いた。マグに入れて、スライスしたレモン(冷凍庫にストックを用意してある)を1枚浮かべる。リビングのほこりを払い、フロアモップで床をみがき、手を洗ってから椅子に腰を沈めた。猫舌の私にちょうど良い温度になったレモン白湯を口に運ぶ。
昨夜も終電だった航くんを起こさぬよう、なるべく物音を立てないでいると、ふいに手持ち無沙汰になった。あのときの同級生たちの名前をスマホに入力してみる。
藤田早樹子。
小笠原桃音。
坂本照子。
すぐにSNSが見つかった。今の顔写真も。
早樹子は保育士になっていて、桃音の職業はわからないけれど結婚しているようだった。いつもみんなを先導していた照子は4人の子どもの母親になっていた。子どもたちを抱きしめて屈託なく笑う写真が載っている。
体の中につう、と冷たいものが流れ落ちる感覚があった。
あんなふうに人の生活をめちゃくちゃにした照子が母親。なんて幸せそうな。あんな人に親になる資格なんてない。許せない、悔しい。
体の中を蝕むように湧き出してきた感情は、夢の中、教室から見た窓の向こうのくもり空に似ていた。湿っていて暗く、いろいろなものを吐き出しそうな重たい感じが。
「クイーンって、エリカちゃんのこと?
確かにエリカちゃんって気品があるもんね!」
その言葉を聞いて、照子の顔が青ざめたときのことは忘れられない。
鈍感なところのある花夜子は純粋な疑問としてそう口にしただけだったのだが、その日から流れは変わった。照子たちは例のあだ名で私を呼んだり、みんなを扇動するようなことをしなくなった。
それまで話したことのなかった花夜子とは、その件がきっかけでぽつりぽつりと会話を交わすようになり、姉のメイクの手ほどきのおかげで高校デビューし、日々を平凡というよりは少し楽しく過ごし、そうして長い年月をかけて人並みの自信をつけてきた。
天上人のような存在だった花夜子とは今の"親友”という形にまで落ち着いた。
今が幸せならばいいじゃないか。
花夜子のあのときの言葉を思い出したことで、私の心は少しずつ落ち着いてきた。立ち上がって朝食の用意をはじめた。
土鍋にお米を入れ、水を注ぎ、火にかける。ほうれんそうをゆでる。温泉卵を作る。お粥以外のものがひと通りそろったところで、また手持ち無沙汰になってついスマートフォンに目を落とした。
まだ照子のページを開いたままだった。なにげなくそのままスクロールしていたら、ふと目に飛び込んできた名前があった。「坂本硝子」。
美しく装ったその人の顔には見覚えがあった。引っかかって思い出せない。記憶をたどる。
すべてが繋がったときの感情をどう表現したらいいだろう。頭を打ちつけたいような恥ずかしさだった。
彼女は高校の同級生「アン」。硝子、ガラスの靴、シンデレラ、アンデルセン、だから「アン」。私がつけた”コードネーム”だ。
いつも私のまねばかりするのが嫌だったのと、自分をいじめていた照子と同姓同名だったのとが原因だったと思う。とにかく私は彼女を敵視していて、同じように感じていた仲間内では彼女をそう呼ぶことにしていた。直接ひどい言葉を投げかけたわけではない。彼女も気づいていなかったと思う。
でも、私は坂本照子と同じことをしていたのだ。
しかも忘れていた。自分に都合の悪いことだから、やらなかったことにしていた。それに気づいたとき、さっき照子に向けて心のなかで放った「あんたなんか親になる資格がない」という言葉が、向きを変えて自分の胸を突き刺すのを感じた。
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最後までお読みいただきありがとうございました。
今日も素敵な1日になりますように。
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思わず顔を上げそうになった。続いて嘲笑が湧き起こる。
私はぐっと身を固くした。動悸が速くなり、鉛筆を持つ指が震えるのを感じた。
「今日は髪型が特にすてきね」
笑い声が続く。目頭が熱くなった。ノートに書きつけた文字がにじむ。でも、決してこぼしてはいけない。まぶたにぐっと力を込める。
気づいていないと思わせなければいけない。どんなに悔しくても、心が引き裂かれそうでも。
確信している、でも証拠がないのだ。
中学1年の秋ほど授業が終わるのが嫌だった時期はない。
チャイムは地獄への入り口だった。
エリカ、エリザベス、女王、クイーン。かんたんな連想ゲームで答えが出る。
「美しい」はその対義語だ。誰に聞かれても困らない、責められない。彼女たちの傲慢で鉄壁の守りに、私はどうすることもできずにいた。
嫌な夢を見た。
まだ弱かったころの私に取り憑いたような感覚だった。あの時の悪感情だけではなく、長雨でどこか湿った教室の空気や、誰かが少し開けたまどから染み込んでくる土のにおいまで、今しがたまで目の前にあったように思える。
ベッドから抜け出して、そのまま洗面所へ向かう。
カーテンを開けると、まだ少し薄暗さが残っていた。嫌な時間に目覚めたものだ。寝直すには遅いし、起き出すには少し早い。
身じたくを整えて、エプロンをきゅっと結ぶ。お腹が大きくなってきたので、そろそろ使えなくなるかもしれない私の今の「戦闘服」。
胸の下あたりまで伸びた髪の毛は後ろでひとつに束ねて、ゴムをゆるめ、ふたつに割った髪の毛の間に毛先をすべりこませる。毛先を左右に引っ張って整える。
お湯が沸いた。マグに入れて、スライスしたレモン(冷凍庫にストックを用意してある)を1枚浮かべる。リビングのほこりを払い、フロアモップで床をみがき、手を洗ってから椅子に腰を沈めた。猫舌の私にちょうど良い温度になったレモン白湯を口に運ぶ。
昨夜も終電だった航くんを起こさぬよう、なるべく物音を立てないでいると、ふいに手持ち無沙汰になった。あのときの同級生たちの名前をスマホに入力してみる。
藤田早樹子。
小笠原桃音。
坂本照子。
すぐにSNSが見つかった。今の顔写真も。
早樹子は保育士になっていて、桃音の職業はわからないけれど結婚しているようだった。いつもみんなを先導していた照子は4人の子どもの母親になっていた。子どもたちを抱きしめて屈託なく笑う写真が載っている。
体の中につう、と冷たいものが流れ落ちる感覚があった。
あんなふうに人の生活をめちゃくちゃにした照子が母親。なんて幸せそうな。あんな人に親になる資格なんてない。許せない、悔しい。
体の中を蝕むように湧き出してきた感情は、夢の中、教室から見た窓の向こうのくもり空に似ていた。湿っていて暗く、いろいろなものを吐き出しそうな重たい感じが。
「クイーンって、エリカちゃんのこと?
確かにエリカちゃんって気品があるもんね!」
その言葉を聞いて、照子の顔が青ざめたときのことは忘れられない。
鈍感なところのある花夜子は純粋な疑問としてそう口にしただけだったのだが、その日から流れは変わった。照子たちは例のあだ名で私を呼んだり、みんなを扇動するようなことをしなくなった。
それまで話したことのなかった花夜子とは、その件がきっかけでぽつりぽつりと会話を交わすようになり、姉のメイクの手ほどきのおかげで高校デビューし、日々を平凡というよりは少し楽しく過ごし、そうして長い年月をかけて人並みの自信をつけてきた。
天上人のような存在だった花夜子とは今の"親友”という形にまで落ち着いた。
今が幸せならばいいじゃないか。
花夜子のあのときの言葉を思い出したことで、私の心は少しずつ落ち着いてきた。立ち上がって朝食の用意をはじめた。
土鍋にお米を入れ、水を注ぎ、火にかける。ほうれんそうをゆでる。温泉卵を作る。お粥以外のものがひと通りそろったところで、また手持ち無沙汰になってついスマートフォンに目を落とした。
まだ照子のページを開いたままだった。なにげなくそのままスクロールしていたら、ふと目に飛び込んできた名前があった。「坂本硝子」。
美しく装ったその人の顔には見覚えがあった。引っかかって思い出せない。記憶をたどる。
すべてが繋がったときの感情をどう表現したらいいだろう。頭を打ちつけたいような恥ずかしさだった。
彼女は高校の同級生「アン」。硝子、ガラスの靴、シンデレラ、アンデルセン、だから「アン」。私がつけた”コードネーム”だ。
いつも私のまねばかりするのが嫌だったのと、自分をいじめていた照子と同姓同名だったのとが原因だったと思う。とにかく私は彼女を敵視していて、同じように感じていた仲間内では彼女をそう呼ぶことにしていた。直接ひどい言葉を投げかけたわけではない。彼女も気づいていなかったと思う。
でも、私は坂本照子と同じことをしていたのだ。
しかも忘れていた。自分に都合の悪いことだから、やらなかったことにしていた。それに気づいたとき、さっき照子に向けて心のなかで放った「あんたなんか親になる資格がない」という言葉が、向きを変えて自分の胸を突き刺すのを感じた。
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最後までお読みいただきありがとうございました。
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